RecSys 2019 に参加しました

こんにちは、馬場です。
9月16日から5日間、デンマークのコペンハーゲンで 開催されたRecSys 2019 に参加しました。

RecSys とは?

RecSys は推薦システムの国際カンファレンスです。

Wikipedia によると、推薦システム(recommender system) は以下のようなものです。

情報フィルタリング (IF) 技法の一種で、特定ユーザーが興味を持つと思われる情報(映画、音楽、本、ニュース、画像、ウェブページなど)、すなわち「おすすめ」を提示するものである。
https://ja.wikipedia.org/wiki/レコメンダシステム

おすすめをするためには、特定したユーザの興味を理解し、同時に映画・音楽などの大量の情報の特徴を把握した上で、その中からユーザにあった情報を選択し、提示する必要があります。

機械がこれを自動で行うのは難しく、価値あるシステムを構築・運用するためには、すべてのステップにおいて理論のバックグラウンドと強い実装力が必要です。RecSys はあらゆる業界・形態の推薦システムに対する創意工夫と課題(苦労)を共有、議論するカンファレンスで、話題はユーザや情報の特徴抽出、情報フィルタリング、順位づけの手法からシステムの評価、大量データ処理などのエンジニアリング、推薦システムに求められる倫理など幅広いものでした。

RecSys は以下のプログラムで構成されています。

  • Keynote
    推薦システムが社会に与える影響や社会の推薦システムに対する期待を、非データサイエンティスト・非エンジニアが語る
  • Paper Session
    推薦システムのテクノロジーに関する論文を発表する
  • Industry Session
    実際に推薦システムを運用している企業が、直面する課題、それを克服した手法、体制やシステム構成などを発表する

Home Depot : Recommendation in Home Improvement Industry, Challenges and Opportunities

実践的でバラエティに富んだ Industry Session があることがRecSys の特長です。Spotify やIKEA などのよく知った企業のあの推薦システムの中の工夫と苦心には、いろいろな発見がありました。

特に、印象にのこったセッションはHome Depot のものです。

Abstract : https://recsys.acm.org/recsys19/industry-session-2/#content-tab-1-2-tab

Home Depot (https://www.homedepot.com)は世界一のホームセンターです。Home Depot は、「DIYしたいが何を買ったらいいかはっきりわからない人」か「特定の商品をまとまった量ほしいプロ」とタイプの違う顧客をもつため、ECだけ/店舗だけでは全ての顧客のニーズに答えられないという課題を持っています。ただ、オンラインではオフラインより多くのものを配置できるし検索しやすい、オフラインでは試したり相談しながら購入できる、という利点があります。そこで、Home Depot では"Interconnected Experience"、つまり、 オンライン-オフラインをまたいだ買い物体験を提供しようと考えました。店舗で相談してからオンラインで細かい備品を検索して購入したり、オンラインで検索したものを店舗で手に取り確認してから購入したり。そんなことがスムーズにできるECサイトを目指しました。

このUXを実現するために、セッションではHome Depot が開発した推薦システムを2つ、紹介していました。

ひとつは"Collection Recommendations"です。
これは関連商品や付属品などを自動的に発見し組み合わせて推薦するものです。スライドでは、洗面台の蛇口とそれとテイストや規格があった温度調節つまみ(お湯と水)の3点を自動でひとつのセットにして推薦していました。商品のテキストの説明文や画像を解析して抽出した特徴量をもとに Category Adjacency Matrix をつくり、それをもとに指定された商品にふさわしい付属品を推薦します。テキストの説明文と画像の類似度、どちらに重みをおくかは、商品カテゴリーによって異なるそうです。インテリアなら画像からわかる色味やテイストが重要だし、電化製品なら互換性がなにより重要だから説明文や商品ブランドなどのテキスト情報、みたいな感じです。この推薦システムを店舗にいる専門家にもみせた結果、納得感があるという評価をもらったそうです。

( ひとさまのTwitter ですが、画像がわかりやすかったので )

もうひとつは、プロジェクトベースの推薦です。ホームセンターに来る人は「壁を塗り替えたい」みたいなプロジェクトをもっている場合がほとんどで、そのプロジェクトを達成するために必要な道具や材料を探しにきます。そこで、Project Graph を構築し、購入する(しようとしている)商品から抱えているプロジェクトを推定、プロジェクトに必要なものを優先的に推薦するようにしました。

2種類の推薦とも中の仕組みがとても高度で複雑なことはもちろんなのですが、ユーザが求めること・店舗のエキスパートが提供しているサービスを分析し、商品の種類や量が豊富なECサイトという特徴を活かして再現するならどういう形がよいのか、丁寧に言語化していることに感銘をうけました。

推薦システムをもたない会社のエンジニアが参加する意義

今年の3月から準備をはじめ参加したRecSysですが、当社は推薦システムを持ちません。

それでは、なぜ参加したのか?
一番大きな理由は、先端技術を応用したシステムがビジネスに貢献している事例にたくさん触れ、体験することにより、社内の技術-システム-人-ビジネスの有機的なつながりを描きたい、ということです。
推薦システムは最終的にユーザである人に情報を提供するシステムなので、課題設定によりウェットなものが残りがちです。そのため、どの企業もシステムが得意な部分 /人の感覚を反映させるべき部分を丁寧に分析し、どう仕組み化するか、あがいているように感じました。また、どの企業もドメインエキスパート(リアル店舗をささえている販売員・新聞社の編集員・ファッションスタイリスト...)をリスペクトし、そのひとたちの知見を最大限に活かした上で、時にはどろくさいことに厭わず取り組んでいました。もちろんそういった推薦システムの構築・改良の取り組みが売上に直結する、という面も大きいとは思いますが、セッションごとに壮絶にかしこいひとたちの丁寧なビジネスへの理解と実装に触れたことはとてもよい刺激になりましたし、あらためて近道はないな、と感じました(去年のブログ記事にも同じようなことを書いてましたね)。

あと、もちろん、技術力の裾野を広げ、来るべき推薦機能の実装に備えるという意義もあります!あれやりたい、って思った時に知ってないと「こんな感じでできると思いますよ」と提案することもできないので。

と、会社員なので「意義」を主張してみましたが、それをぬきにしても、本当にとても楽しいカンファレンスでした。来年はブラジルだそうです。これをみて少しでも興味をもった方は今からぜひ準備をはじめてみてはいかがでしょうか。

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