HCDとかデザイン思考とかUXって何が違うの?

タイトルに列挙したようなキーワードを、ここ1、2年で頻繁に耳に(目に)するようになりました。
実は当社でも「HCD推進チーム」という有志の集まりがあり、勉強しながら社内のいろいろな活動へ少しずつ適用しています。

先日は「デザイン思考」についてワークショップ型で学ぶ機会があり、さっそく進行中のプロジェクトで実践してみたりしているのですが、ふと「HCD」と「デザイン思考」の違いが気になりました。同じもので呼び方が違うだけなのか?似て非なるものなのか?どちらかがどちらかに含まれるのか?

そういえば「HCD」ではなく「UCD」という呼び方をする人もいます。「UXD」という紛らわしいワードもあります。ただでさえアルファベット3文字の略語が多いというのに、ぜんぜんユーザーに優しくない。(笑)

というわけで、それぞれの用語について少し整理してみました。

HCD

人間中心設計(Human Centered Design)の略。
名称からも想像しやすいですが、モノや技術中心ではなく、使う人間を中心に据えて、人の要求に合わせたモノ作りをするためのプロセスを体系化したものです。分かりやすく「モノのデザインからコトのデザインへ」と表現されることもあります。
実は、国際基準機構「ISO 9241-210」でしっかり規格化されています。
1999年に国際規格化され(ISO 13407)、その後 ISO 9241-210 へと改変されました。
イギリスのB.シャッケル氏の人間工学系の研究が基本になっていると言われています。

HCDの基本プロセスは以下のとおりです。評価の結果ユーザーの要求が満たされていなければ、繰り返し行います。

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また各プロセスの手法も多く存在します。当社でよく使う手法は以下のようなものです。

利用状況の把握と明示(調査)
・オブザベーション(観察法)
・フォーカスグループインタビュー
・デプスインタビュー
・ご近所リサーチ

ユーザーの要求事項の明示(分析)
・上位下位関係分析
・ジャーニーマップ
・ペルソナ/シナリオ法(構造化シナリオ法)
・KJ法

ユーザーの要求を満たす解決策の作成(作成)
・ブレーンストーミング法
・ストーリーボーディング
・ペーパープロトタイピング
・デジタルプロトタイピング

要求事項に対する設計の評価(評価)
・思考発話プロトコル法
・パフォーマンス測定
・ヒューリスティック評価

HCDプロセスでは、スタート部分「人間中心設計の計画」が重要視されます。
プロセスを導入する理由や目的を事前にしっかり定義し、関係者間で共有しておかないと、実際のプロジェクトでもうまく進まないことが多いです。

※「人間中心設計推進機構」のサイトでHCD関連イベントや書籍について知ることができます。

デザイン思考

問題解決のための思考法の一つです。
「デザイン」というと見た目のデザインをイメージするかもしれませんが、ここではもう少し広義の、問題解決のプロセスのことを指しています。デザイナーさんのための何かではなく、むしろノンデザイナーにもデザイナーの発想法が使えるように体系化されています。
アメリカのIDEOというデザインコンサルティング会社(アップル社の最初のマウスをデザインしたとして有名)が、イノベーションを起こすための独自のアプローチを概念化したものとされています。
2005年にIDEOの創設者の一人がアメリカのスタンフォード大学で「d.school」を創設したのが広く知られるきっかけとなっています。

デザイン思考では、「Empathize(共感)」「Define(問題定義)」「Ideate(創造)」「Prototype(プロトタイプ)」「Test(テスト)」の5つが基本プロセスです。表現は違いますが、HCDとよく似ていることが分かります。
これを素早く回し、早めに失敗し改善を繰り返すことで、作り込んでから大がかりな修正をするような手戻りが減り、トータルでは効率が良くなります。

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先日参加したデザイン思考のワークショップでは、短時間ではありましたが一通りのプロセスを体験できるものでした。実践してみて感じたのは、アイデアを出しやすく工夫されているなという点です。d.schoolが公開しているドキュメントも図やイラストでビジュアル化されているものが多く、直感的に理解できる工夫がなされています。

※「デザイン思考研究所」のサイトでデザイン思考についての学習方法を知ることができます。

UCD

ユーザー中心設計(User Centered Design)の略。
HCDと非常に似ていますが、歴史的にはこちらのUCDのほうが古く、1986年にドナルド・A・ノーマン氏の著書の中で使われていたのが始まりだと言われています。
ちなみにノーマンさんはアメリカで認知工学者であるのに対し、HCDのシャッケルさんはイギリスの人間工学者です。
セミナー等ではUCDとHCDはほぼ同じと説明されることが多く、プロセスや手法に明確な違いはなさそうなのですが、「認知工学」は認知性を扱い、「人間工学」は操作性を扱うもので、いずれもユーザビリティの重要な要素ですので、両者が融合し発展したものとも言えそうです。

UXD

UXデザイン(User Experience Design)の略。
UXとはユーザー体験のことで、UXデザインとはそのユーザー体験を実現するための方法論。
UXデザインのためのHCDやデザイン思考であり、タイトルには並べて書きましたが、実は「UXD」という用語は上記3つの用語とはレイヤーが違います。
UXとは前述の「操作性」「認知性」の次に注目されている、人間の「感情」に注目した概念です。製品やサービスの購入から利用した結果までの一連の流れを通じて得られる経験や満足を表すものです。ここ数年で活発に使われ始めた用語なので人によって解釈が違うなぁと感じますが、少なくとも「UI」と同義で語る人は減ってきたような気がします。

まとめ

これまであまりHCDとかデザイン思考とか意識せずに、状況に応じて取り入れやすい手法を選んでいましたが、このように根底にある思想や背景を知ることで、より効果的に活用できるかもしれません。今後の活動では意識してみたいと思います。

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